11話〜15話

 ネット住人、自称カリスマ、HN「世界婦人」本名、米山いくお(21歳、鉄壁童貞)は自宅のシアタールームで当世、オタクどもの間で熱狂的歓迎を持って広まっている超スペクタクルオンラインRPG「巨大メントスって甘いのかな?それとも恋の味?えっ!?恋の予感!?X〜導かれし甘党〜」をプレジデントチェアに深々と座りながらやっている最中であった。
 いくおが声を漏らしたのも無理はない。
 今までレベルをコツコツと上げ、宿敵であった杏子を仲間に加え、地雷を仕込んで中ボスを倒しようやくラスボスの巨大メントスとの対面を果たしたのである。
 いくおの鼻息は増すばかり。
 「ふふふ、遂にこの時がきたようですね・・・」
 いくおは音声チャットにてゲーム上の仲間であるHN「お魚天国」氏に呟いた。いくお的には重々しく、そして厳かに、
 「この歴史的瞬間を共に味わえる俺らって現実世界の友達以上の存在だね、君のリアルの素性は全く知らないけれど、俺らって今、共感しあえてるね」
 という行間の意を込めて呟いたのであるが、セキュリティー上の問題で「お魚天国」氏の耳に届く迄にその声はボコーダーによって強制変換され3オクターブくらい高い調子になっていたのであって、「お魚天国」氏は当然
 「何言ってんのこいつ、キメーなぁ、絶対こいつ童貞だな、しかも鉄壁の。あ、今屁が出た。」
 と思っただけであった。
 「いくおちゃん、そろそろごはんですよ。」
 「うんわかった、ママン、すぐいきまーちゅ!」
 いくおは真性のマザコンであったが、この時ばかりはママンの存在をうっとうしく思った。しかしママンの言うことは絶対であった。
 ママンが「そろそろごはんですよ」といったらそろそろご飯を食べねばならない。
 さういへば「ごはんですよはごはんですよぉ」とかいう海苔佃煮のCMがあったなぁ、などと思いつついくおはクライマックスを目前にここで一旦ゲームを終了せねばならなかった。
 「ごめん、お魚ちゃん、君には悪いけれど今日はここでお別れだ。続きはまた明日。じゃあね・・・。」
 「お、」
 「えっ?」
 「俺なんか、漏れなんかどぅどぅどゅどゅゅううううよおうおう!!」
 いくおは予想外の返答に絶句した。
 だっふんだ。

By Re:mix

 「ちょっと待ったー!」
 いくおがお魚天国の言葉に、驚愕と畏怖とほんの少しの乙女恥ずかしさを感じていた時、二人の間に割って入ってきたのは、HN・もちもちプリンだった。
 もちもちプリンは、メン甘(「巨大メントスって甘いのかな? それとも恋の味? えっ!?恋の予感!? X〜導かれし甘党〜」の略称)のカリスマ的存在のプレーヤーである。彼は、メン甘の世界の中では最高のSランク。彼は誰ともパーティーを組まず、レベルを上げてきたという変わり者である。メン甘がテストβバージョンから始まったのが、2ヶ月前。その短期間にSランクになっている人間は彼しかいなかった。ぶっちゃげコンビニに行く時しか外に出ない、オンラインゲーム中毒者の典型。
 「世界婦人、君のような素敵なレディには、僕のような強い漢がONIAIさ! お魚天国君のような弱小プレイヤーと同じパーティーを組んでいることさえ異常なことなんだ。さあ、僕と一緒にメントスを倒しに行こうではないか!」
 と、犬山★子と同じ声でささやいた。
 もちもちプリンは、名前に婦人がついているだけで、いくおを女だと思い込んでいる勘違い野郎である。いくおのキャラクターが、猫耳つきの際どい水着のようなレザースーツなのが追い討ちをかけているようである。しかし、オンラインでこういうキャラクターを使う奴は大抵男なのは常識。
 いくおは悩んだ。お魚天国は仲間としては楽しい。しかし、使えない。空気が読めない。会話のキャッチボールが出来ない。の三拍子が揃った奴である。仲間として便利なのはどちらなのか、考えるまでもない。そんないくおの迷いを打ち消すように、
 「世界婦人! 僕はきみのことがずっと、ずっと、ずっと……。この想い誰にも負けない!」
 お魚天国は想いのたけをぶちまけた。
 「きゃ!☆★(>−<) 二人の素敵な男性が私の為に喧嘩をしている! …そんなの駄目! 絶対!」
 いくおが甲高い声でそう叫んだとき、お魚天国ともちもちプリンはバトルに入っていた。勝った方がいくおとラストバトルに行けるという、わかりやすい展開である。
 勝負は一瞬でついた。お魚天国が攻撃のコマンド選択をしている間に、ステータスの早さの違いで、もちもちプリンは召喚獣「ナマチャパンダ」を遣い、お魚天国を一瞬で喰い殺した。
 「さあ、迷う必要は無くなったよ。僕と一緒に来るんだ。」
 「お魚ちゃん…何の役にも立たない糞野郎だったけど、いい奴だったのに…。敵討ちじゃー! もちもちプリン、往生せいやー!」
 いくおはカツ見込みのない戦いを挑んだ。そしてママンのご飯を食べなさいとい言葉には、もはやどうでも良かった。ママンに生まれて初めてさからったのである。
 蒸し暑い、ありきたりな男たちの戦いの上空に、暗雲が立ち込めた。
 しかしそれが雲で無いことが一瞬でわかった。
 「タタカイハ、ナンノカイケツニモナランカラ、アカンヨ。ツイデイウト、ホントウハ、ワシ、ラスボスチャウ。ダダノ、デッカイメントスナンヨ。」
 とメントスは言葉を発した。
 いくおともちもちプリンは愕然とした。今までの戦いは何だったのか。幾多の犠牲は無駄だったのか。今日の晩御飯は何だったのか。
 「ガッカリシトルヨウヤカラ、ダンダン、カワイソウナッテキタワ。ホントウノ、ラスボスオシエタル。ワシノ、セナカニ、ノルトエエ。」
 メントスはゆっくりと降下し、世界婦人ともちもちプリンの前に着地した。
 「騙されちゃいけない!」
 突然、藪の中から、ある人が叫びながら飛び出てきた。 

BYもるこ

 「騙されたら殺す!」
 ”ココナッツ大将”と名乗るその人物が3人を制止した。
 ココナッツ大将(♀)はもちもちプリンの配偶者(メン甘内において)だが、もちもちプリンの浮気が原因で別居中であった。この事実はあまり知られていない。故に、もちもちプリンは一匹狼として認知されているのだが、そもそも、もちもちプリンがこれほどのカリスマプレイヤーに成長したのも、ココナッツ大将が毎朝6時には起床し、冷凍食品中心の愛妻弁当を欠かさず作ったからであり、もちもちプリンの弱みを握っていると言っても過言ではない。このことを読者諸君も肝に銘じて欲しい。
 「お前…今更何の用だ」
 苦虫を噛み潰したような表情でもちもちプリンがつぶやく。
 この険悪なムードに一番弱いのが実はお魚天国で、彼は場の空気を和ませようとしてよく失敗する。今回もまた何かやらかすんじゃないの〜?
 「ほ、ほら。お二人とも、仲良くいきましょうよ。何があったか知りませんがね、昔はベッドの上でいんぐりもんぐりし合った仲でしょう?」
 この一言は致命的である。
 さすがおさかな天国と言ってよいだろう。
 空気が読めないのは彼の専売特許である。(実際、特許を取ったとか取らないとか)直後にお魚天国は、ココナッツ大将からアッパー昇龍拳を頂戴し、見事失禁した。

 この一連のやりとりは当然のごとく2ちゃんねるのネトゲ実況板「メン甘限定・二人の情事をスッパ抜くスレ」にて実況されており、このことがきっかけでおさかな天国は翌日会社を欠勤したのだと、同僚は話す。そしてさらに翌日には自らの命を絶ち、天国へ召されたそうだよ。(お魚天国だけにね!爆笑!)

 そんなこんなでラスボスを倒した頃には、ママンの作ったおいしい晩御飯(上海風焼きソバ)は極限まで冷めており、ママンの流す涙はやがて、精霊たちの棲む美しい湖を作り出したそうな。

BY ドン・ホルモン男爵

 タッタッタッタッタ
 四角いリングに2人の男の軽快なリズムが響く。血流が増加し肥大した彼らの筋肉は、汗で艶を一層増し、見る者全てに新プロレス時代の到来を予感させた。
 彼らの名は”カバandハクビシン”。彼らはメキシコで次世代を担う覆面レスラーとして脚光を浴びており、来月にポーランドのワルシャワで開かれる世界覆面武道会のメキシコ代表として出場するのである。因みに名前の由来であるが、見た目以上に両者は凶暴だという意味で付けられたらしい。実際、カバは危険だ。アメリカロサンジェルス在住のプロレス評論家、青髭のカルロスによると、2人とも、かなりの童顔で、それをかなり気にしているとのことである。
 練習開始から10時間が経過し、時計の針が9を指す頃、青地にカバのエンブレムが入った覆面選手、通称、タコスキラーのカバは練習相手にタオルケットを差し出し、こう言った。
 「今日はこのへんで終わりだセニョール、メキシコの大地に闇が訪れたようだぜ。」
 「ハァハァハァ…ハ…イ…。」
 練習相手は赤の覆面に手をやり、ハクビシンの紋章を指でなぞった。自分が引き継いだ覆面の重さを忘れないためにである。
 「このハクビシンのarma(紋章)に懸けて、次のワルシャワでの試合には絶対負けられない。ロシアの白鳥兄弟に勝たなければ意味がないんだよ。」
 そういい残し、ハクビシンは汗で重量を増したタオルケットをマットに叩きつけリングを後にした。

 帰宅した後も、彼の脳裏からは白鳥兄弟のことが頭から離れなかった。ロシア最強格闘技、コマンドサンボを基調とした白鳥兄弟の攻撃を解決できずにいたのである。彼らを倒さなければ、世界一にはなれない。何度も何度も白鳥兄弟の黒い長靴が頭をよぎる。こんななにもかも忘れてしまいたい時、彼はいつもパソコンに電源を入れる。そして最近はまっている日本製通信ゲーム「メン甘」へとログインするのであった。
 ハクビシンはねずみ色のキーボードに思いのたけをぶちまけた。
 ”もちもちさん、こないだはごめん。最近仕事でつらくて一人になりたかったんよ。”
 するとネットで信頼する旦那、もちもちがすぐに現れた。
 ”気にするなココナッツよ。かわいい、かわいいココナッツよ。俺も来週出張でワルシャワに行かなくてはならないから、イライラしていたのかもしれん。俺の方こそごめん。”
 ”えっ!私も来月、ワルシャワに行くの!奇遇だわ”
 
 何回短針が回転しただろうか、2人の会話は何時果てるとも知らずに続いた。しかし、何事にも終わりがある。”でわ、また明日”という言葉を残し、ココナッツことハクビシンは2次元空間から姿を消した。
 プスッ…プスッ…
 一人になった、もちもちは手持ち無沙汰で2人の覆面レスラーの写真にダーツを刺していた。一通り矢が手元からなくなると、黒いブーツと白鳥が刺繍されたマスクを手にノートパソコンを閉じるのであった。 

BY 濡林

 6月3日  金曜日  晴れ
 ぬっ。
 「ぅわぁ!!」
 ぬーっ!!
 「ぅわぁ!!」
 ぬ、り、か、べー。
 さっきからなんか視線感じるなー?俺って自意識過剰?
 おいらの勘は正しかったみたい。ほら部屋の隅にいるじゃない、奴が。
 ・なぞの男「ヒーローは遅れてやってくる、それがメキシコ流。(メキシコプロレスではヒースとヒーローがわざとらしいくらい対比的に演出される、ちなみに最終的にヒーローが必ず勝つ)」5へぇ。
 「ぅわぁ!!」
 「c,a,l,o、カロリーメイト、飛びます飛びます。ぴゅーん、ブクロサイコー。」
 ・なぞの男「はっは、元気にしてたか、MOTIMOTTI!!相変わらず息が臭そうだな!!」
 「そ、その声はココナッツ兄さん!?」
 ・なぞの男「いや、それがわからん。そういうことにしててもいいんだけれど、ぶっちゃけ最近自分が自分でようわからん。つまらん、お前の話はつまらん。(秀治)」んでからね、
 「長い夢を見ていた気がする・・・。すひーーー(口笛)そ、そいやごめんねっていう清涼飲料水あったね。」
 まったく素直じゃないんだから。母さんも人が悪い(微笑)
 話を聴きながら「もちもち」は、「ああ、この人はこの台詞言ってみたかったんだろうなぁ」と思ったわけ「希望的展望」(苦笑)
 そういえば知り合いで「希望的展望」って使いたくてたまんない奴がいたっけなぁ、例えばね、「希望的展望を見越した上で、便所行ってくる。」
 「希望的展望を言わしてもらうと、木に手列で奇天烈です。(175ライダー)」てな感じなわけ(爆笑)
 でもね、僕ぐらいの年になると誰でもあるよ、そういうとこ。
 ちょっと背伸びして、大人の仲間入り、みたいな。
 かくいう自分も難しい言葉使いたいときあるもん。
 「十六夜の今日(けふ)、黄泉の国の魑魅魍魎や蜥蜴、蜘蛛、薔薇、檸檬の類が、五月蠅いで候ね。希望的展望。(黄熱病に倒れた孤高の医学者、野口秀雄の幼少期の蔑称は「てんぼう」これは本文と関係なし)」×5(クリカへシ)
 なんてもう日常茶飯事なのみたいな。
 抜粋「うまい某未完の手記」
 暇だから読んでいた他人のWeb日記。
 昔遊んだ某TVゲームで「ネット上に日記をつける人は誰ともわからぬ読者に対して自己を発信するわけだから、それは恐ろしく孤独な行為だ。」
 というバーテンダーに対して「それを読むあんたはもっと孤独だ。」
 とさらに孤独な探偵が切り返すシーンがあって、自分としてはかなり印象に残っているんだけれども、それはおいといても、この日記を書いた奴はきっと阿呆に違いない、ともちもちプリンは思った。それは彼がノートパソコンを閉じる数分前の出来事。

 ううん、終わりじゃないよ、勝ちへの途中。あうあーあうあうあー。しかし剣術指南列伝漫画「バカ煩悩」はおもしれーナー。
 俺も剣術ならうかな、ずば。
 「ぅわぁ!!」
 だめだ、もう息が続かない、それだけ書いて筆をおく。
 やった!!「メン甘」クリアしたよ!!
 そんな世界の先に待っていたものとは・・・!?

By Re:mix

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