6話〜10話

  「はーい、今日の『鍋つかみ』 はここでおしまいでーす。みんな続きが気になるかなー?」
 新米保育士のマリコ先生は笑いかけた。
 園児たちはまだまだ不満があるらしく、
 「きっと鍋大臣と総帥は、この後カラシを塗りたくりあうんだぜー!」
 「私、チョコパフェちゃんが一番かわいいと思う!」
 「先生ー、木村君が鼻からバターピーナツ出してくるので困っています。」
 と口々に騒ぎたてていた。
 その中の一人、クラスのリーダー格のリョウ君が、呟いた。
 「そういえば、う●い棒のキャラクターって、ドラえ……」
 マリコ先生はそれを読唇術で読み、得意の瞬間移動でリョウ君の背後に回り込み口を押さえた。
 「それ以上言うと、君の三親等までが陰惨な死にかたをすることになるけど、それでもいいかな?」
 リョウ君の頭に顔を乗せ、骨伝導でそう伝えた。リョウ君の首には、既にピアノ線が巻かれていた。
 リョウ君は軽く失禁しながら「…ご、…ごめん…なさ…い…」
 と、やっとのことで言い切った。
 「みんなのお母さんが迎えに来ましたー。みなさん気をつけて帰ってくださいねー。今日一日にあった事を深く反省して、二度と同じことを繰り返さないこと……そう、それが、実践出来ていれば里が滅ぶことは無かったのに…。」
 マリコ先生はわなわなと震えだした。
 「マリコ先生がインナーワールドに入ってしまったので帰りまーす。先生さようならー。みなさんさようならー。」
 子供たちいつもの通りに自主解散した後、過去の爆笑コント100連発を脳内で思い描いていた、元くのいちマリコ先生の目の前に、ある男が立ちはだかった。

BY もるこ

 「東大理Vですが何か?」
 ある男が立ちはだかったが、この男は別に物語に関係のない男だった。”ある男”と書いてあるので、ひどく思わせぶりだが、なんのことはない、只の男。只の男である彼が絡む次の展開に胸を膨らませたあなたは、先走りすぎである。そんなあなたは「簡単に騙されないで!」と演技派女優コ○キに叱責されるであろう。
 
 生徒が居なくなった教室で、マリコ先生は独りチャンドラ・アリマンドに想いを馳せた。
 「メロンパンゴッツウマイッス。メロンパンゴッツウマイッス……はぁ」
 私もアリマンドに食されるメロンパンになりたい。ハードMのマリコ先生は、そのようなことを考えながら、一人ぼっちの教室で恍惚の表情を浮かべた。
 「ちょっとまった〜」
 マリコ先生の背後に、先程の東大理Vが現れた。
 「メロンパンが好きです。でも象さんのほうが、も〜っと好きです」
 理Vは象さんに愛の告白をして、疾風の如く教室を出て行った。マリコ先生は思わぬ出来事にあっけに取られたが、すぐさま彼のメントスの残り香に心奪われた。
 「メントスが食べたい。」
 このどうしようもない衝動に駆られたマリコ先生は我を失って、保育園を飛び出した。いつのまにかマリコ先生という新米保育士から、22歳の女性、真理子へとその姿を変化させていた。
 なびく髪、真っ赤なルージュ、5cmのハイヒール、そして併走する東大理V。彼女は紛れもなく真理子であった。
 駄菓子屋に到着した真理子は叫んだ。
 「メントス!メントス!メントス!」
 理Vは叫んだ。
 「親父は開業医ですが何か?」
 そして、真理子はアリマンドとの結婚資金用に貯めた、10万円を駄菓子屋のババアに叩きつけた。

BY 濡林

 一方其のころ、富士の樹海の中に密かに所在する某マッドサイエンティストの秘密基地では(注:ここまでわかっている時点で既に秘密でない。)人類史上最も誉れ高き不可能実験が最終段階を迎えようとしていた。
 「博士、遂にやりました!」
 「む!?どうした助手!?」
 「どうしたもなにも博士、遂にタイムマシーンが完成したんですよ!」
 「何っつ!?本当かね助手!!」
 「はい!とうとうやりましたよ!」
 「やった!やったぞ!よーし、まずはタイムマシーンの完成を祝って・・・」
 「で、祝杯を挙げて、タイムマシーンに乗って過去の世界にタイムスリップするんだが、これが祝杯をあげる一瞬前に戻ってしまうのがこの話の味噌でさ、博士と助手は延々と酒を飲み続けるわけなのよぎゃははははっつつつ・・・おもしろいべ?」
 駄菓子屋のババァは真理子の一大行動もいざ知らず、近所の婦人向けブティック「キャシーズ・ナウ・トレンド」という全然ナウくない店のオーナーであり、駄菓子屋のババァに負けずとも劣らないくらい汚いババァでもある「岸元トメ(89)」と井戸端会議に夢中になっていた。ババァは時勢に疎いからよろしくない。
 ババァは現代の若者がどれだけキレやすくて、凶暴なのか知らなかった。
 「プチン!」某格闘漫画が初出であるお馴染みの何かが切れる音が店内に響いた・・・。
 「ごらぁアアアアアアアアああgjdfjがjklsf打アアfdjhdlg火あう7いぇ憂いyhdsjkhlds!!!」
 凄まじい爆音と熱風とともに真理子は修羅と化し、駄菓子屋「みつや」の素朴な店内に鬼神が降臨した。

 警察が駆けつけたときには既に「みつや」は跡形もなく、爆心地のように地面がえぐれていた。周囲に飛び散った遺体を目の当たりにした検死医達は、
 「まるで鮫に食いちぎられたようだった」「ジョーズを思い出した」「坊主が屏風に上手に絵を描いた」「むしゃくしゃしてやった」「やっててよかった」
 などと毎朝新聞記者のインタビューに答えている。
 現在警視庁は特別捜査部を設置し、現場から逃走したと思われる女の行方を目下捜索中である。警視庁捜査一課の敏腕刑事「銭形ふとし」はただ一言
 「・・・どうやらおいらの出番のようだな・・・。」
 とだけつぶやき、現場をあとにした。その二秒後、地雷を踏んで死んだ。

By Re:mix

 そのころ、真理子の双子の妹、杏子(きょうこ)は選択を迫られていた。
 「キリンさんが好きです。ゾウさんも好きです。でも秋葉・アニメ紙袋・長髪・リュックの人の方がも〜〜〜〜〜っと好きです!」
 杏子の決断は、サディスティックなまでに冷酷だった。
 杏子に散々もてあそばれたキリンさん(48歳・無職・本名 男山三郎)とゾウさん(73歳・夢の年金暮らし・本名 鈴木源蔵)は、涙ながらに杏子にすがった。
 だが、杏子は真理子の正反対で、完璧なまでにハードSだった。
 「じゃ〜あ〜、杏子に見捨てられたくなかったら〜、杏子の欲しいものを5分以内に持ってきて〜〜。キリンさんはメントスね〜、像さんはメロンパン。今直ぐ買ってこーい。この糞転がしども〜〜。」
 はいっ!と威勢の良い返事をすると、キリンさんとゾウさんは恍惚の表情を浮かべながら駄菓子屋「みつや」に走った。それはもう、彼らにとってはよだれモノの指令だった。
 「あのブタどもをいじっているのも飽きちゃった〜。そういえばオネイちゃんどうしてるのかな〜?」
と、気まぐれに真理子のことを考えた同時刻に、キリンさんとゾウさんが激走した目標地の「みつや」は、彼らごと爆音と熱風とともに飛び散った。
 杏子は、長い縦ロールをくるくるさせながら、ドピンクの自室のレースカーテンを開けた。
 「あー、オネイちゃんまた暴走してる〜〜。すぐにクレーター作っちゃうんだから〜。あんなことさえしなければ里が・・・・・・。いや、もう過ぎた話をいってもだめね〜。死んじゃったあの鼻毛どもの代わりに、何して遊ぼうかな〜〜。」
 そう考えていた杏子の足元に、真理子が幼稚園で読んでいる『鍋つかみ』が落ちていた。杏子はおもむろにそれを拾い上げ一頁目をめくった。
 シュールで奇抜・・・というか、ぶっちゃげ、頭のおかしい人たちが描いたこの絵本に子供たちは夢中だった。
 顔がアンパンで出来ているヒーロー絵本よりも大人気なのだ。
 「鍋大臣の恋の行方、気になるわ〜。きっと、初デートは動物園ね。ペンギンの前で、手をつなぐ二人。そして芽生える友情以上の感情。」
 杏子はハードSかつロマンチストだった。
 数頁を何気なく開いていた『鍋つかみ』の7頁目をめくった時、異変はおとずれた。

BY もるこ

 ドドドドドドドドドド…
 「何!あれ」
 目の前に現れた非現実的な光景に、杏子は愕然とした。
 なんと、半径30mはあろうかという巨大な饅頭状の物体が、1kmほど前方に現れたのである。そして、その物体はゆっくり回転しながら、「みつや」の上空を旋回し続けていた。この異変は杏子だけではなく、近所の人間も気づくところである。殊に、香ばしいかおりに刺激された甘党達は、この物体に釘付けになっていた。
 「うまそう!」「踏まれたい」「アンになりたい」
 わらわらと騒ぐ甘党の中から、勇気ある一人の男性が声をあげた。彼の名前は大田亀次郎38歳、職業は家事手伝いである。
 「I`m a hungry man. So I would like to have something to eat. Please give me a part of your body.」
 日本語が喋れないわけではない、だが彼は、辞書をひきつつ英語で言い切った。己の自己顕示欲のためだけにである。彼が英語にこだわる理由は、少し根深いところにある。何故なら、彼はインターナショナルスクール卒業という学歴だけを誇りに生きている人間だからである。つまり彼もまた過去にしか生きられないみじめな男なのである。そのため、英語で言い切った亀次郎の顔は自信に満ち満ちていた。もう火のついた亀次郎を誰も止められない。すぐさま彼の自信は行動となってあらわれた。亀次郎は近くにあった銭湯「竹の湯」の煙突を見つけると、急いでそこによじ登り、巨大な物体に乗り移ろうとしたのである。
 「もうちょっと!もうちょっと!」
 亀次郎の手は空を切った。
 そんなおり、謎の物体が一言、口にした。
 「エイゴハニガテヤカラ、ワカランケド、ホントノトコロ、ワシ、デッカイメントスナンヨ」
 亀次郎はこの言葉を聞いた直後に手を滑らし、煙突から落下した。
 1km手前で観察していた杏子は亀次郎を新たな飼い犬にすることに決めた。
 

 ピコン…ピコン…ピコン
 「遂に現れたか…」
 巨大モニターを眺めながら、一人の男が呟いた。

BY 濡林

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