1話〜5話

 ワンス・アポン・ア・タイム。昔々といっても、それほど昔ではないが、あるところに馬井という伝説の化学教師がいた。”あるところ”と言ったが、これも実際は埼玉県志木市。まぁとどのつまり、関東平野の真ん中に変な人がいたというわけ。”変”という形容の仕方は、説明しているようで、説明になっていない、ひどく曖昧なことばである。そのため、まず、彼のどこが変なのか順を追って説明していきたい。はじめに周りの人間が異様さを感じるのが、その彼の秘密主義である。彼は、徹底した秘密主義者で、自分の名前をも、ひた隠しにした。そのため彼の生徒や友人は彼の苗字しか知らない。その結果、いつしか彼は「馬井某」、「ウマイボウ」と呼ばれるようになった。

BY 濡林

 トゥー・ビー・フランク・ウィズ・ユウ、率直に言って、馬井は詩人であった。朝の目覚めを愛し、夜の訪れに涙した。
 「あの頃の僕たちは、まだ若すぎて、同じ過ちを繰り返しては無邪気に笑いあったんだね、そんな青の季節にSA・YO・NA・RA・・・。」
 これは馬井の会話録からの抜粋である。もう一度言う、会話からの抜粋である。
 こんな青臭い言葉は本来、思っても言わぬか、或いはマル秘ノート、恋文の類にしか書き綴ってはならぬ代物である。
 だが馬井は吐く。馬井某は吐くは吐くは、こんなバブル期の安ドラマによく見られたようなポエムチックで鳥肌の立つような迷台詞を会話において吐きまくるのである。こういう点でも馬井某は変わっているのである。ちなみに馬井某は「いたれりつくせり」という言葉を、勝手に卑猥な言葉だと解釈していた。むっつりである。

By Re:mix

 馬井某は、あることに気がついた。
 「TO●IOのリーダーって、城●じゃなくても良くね?」
 そんな、くだらない考えを彼は直ぐに打ち消した。
 「否、また否。生命の原理がコスモゾーンであるように、TOKI●もまた、●島リーダーのみに支えられているに違いない。ひいては、ジャ●ーズ事務所全体も、彼一人の力で・・・・。」
 有名予備校講師も真っ青の講義をしながら、同時進行で高尚な思考をいくつも巡らしているとは知らず、生徒たちは、馬井某を崇拝していた。
 
 風の強いある日、志木には唯一の50階建てのデザイナーズマンション。その47階に住む彼の視界に、異様な物が飛び込んできた。
 自作ポエム集「angel of miscief」を、朗読している最中だった。
 一辺が八センチ四方、一センチほどの厚みを持つ白いモノだった。
 それは唐突に、窓を隔て馬井某に話しかけた。
 「あなたが落としたハンペンは、金のハンペンですか?銀のハンペンですか?」
 「僕はハンペンなんて食べたこともありません。人違いですよ。」
 彼は、即答した。彼の態度は紳士的で、動揺の欠片も感じられなかった。
 ハンペンはそれを黙殺し、食い下がってきた。
 「ですが、あなたはハンペンを故意に落としたことがありますね?それは、あなたが小学三年のクリスマス会の時に・・・。」
 「その話は言うな!」
 馬井某は勢いで窓を開け、ハンペンを掴み、生ゴミ再生処理機に投げ入れた。
ハンペンはしばらくの間、処理機の中で暴れ、「・・・・せい・・・・・・が・・・」と、途切れ途切れに叫んでいたが、そのうち再分解され三時間後には、土になっていた。
BY もるこ 

「昔ながらのハンペンだったぜ。メイビー」
 と土に還った練り物を見ながら彼は呟いた。
 
 「しくじりおって」

 蝋燭の灯が揺らめく二人だけの部屋に怒号が響いた。
 「申し訳ありませんでした。総帥」
 もう一人の男がひれ伏して答えた。ひれ伏す男の顔は憔悴しきっており、これから彼の身に起きるであろうことを全て悟っているようであった。
 「鍋大臣よ、お前はこれで何回目だ。組織の掟は絶対だ。」
 総帥と呼ばれる男は紅潮した顔でそう呟いた。
 「お…お許しを…」
 鍋大臣と呼ばれた男はか細い声で答えた。もはや、彼の身体は意思に反して震え、土下座の体勢を保つのもやっとであった。
 そして、怯える鍋大臣の目の前で、総帥はおもむろにポケットからマスタードを取り出し、そのマスタードを皿にのせてあるシュークリームの中に注入した。コンクリートで固められた部屋にはシュークリームの甘い香りとマスタードの刺激的な臭いがたちこめ、一種のカオスが出現していた。
 シュークリームを握る総帥の目は悪意に満ちていた。だが、それと同時に象牙色の白目は限りなく澄んでいる。総帥は内に深い矛盾を抱えた男なのである。そして、その矛盾が彼の魅力でもあった。
 「さぁわかっているだろう…」
 総帥はシュークリームを鍋大臣の目の前に差し出した。

BY 濡林

 

 「シジミ貝でやんす!」
 その刹那、シュークリームがぶっちゃけた。
 「えぇ−っっっつ!!」
 そこにいた一同は一瞬あっけにとられ、
 動きを封じられた。勇者の攻撃。今まで総帥打倒を草葉の陰から虎視眈々と狙っていた勇者(本名:増田ふとし、年齢28歳。童貞。趣味、一人じゃんけん。)は
 「父上の仇でござる!!」
 と、なかば声が裏返りながらもスタンガンを手に飛び出していた。しかしその勇気も空しく、総帥の一歩手前にてSMK(総帥を守る会)の皆さんによって蜂の巣にされて天に召された。増田ふとしの最後の言葉は「ひでぶ!!」だったが誰一人くすりともせず、黙殺されたのであった。所詮その程度のギャグセンスの持ち主だったのである。賛成の反対なのだ。
 「これで本当によかったのですね・・・。」
 鍋大臣がつぶやいた。
 「うむ・・・。」
 そうつぶやいた総帥の目にはいつの間にか滂沱たる涙があふれ、頬を伝っていた。
 「ちょっとサイケデリックで、大学七浪中だったが、やはり息子は息子に違いないのだ。」
 「ええ話や・・・」
 鍋大臣は総帥の哀愁漂う背中に漢を感じていた。
 「キュン!」
 痛っ!鍋大臣は咄嗟に胸を押さえた。鍋大臣は自分の中に芽生え始めた感情(passion)に戸惑いを感じた。
 「トクン!」
 きゃっ!何!?何なの私ったら・・・。この胸のときめき・・・やだ・・・私・・・総帥に恋してる!?
そんな顛末の最中、総帥宅(中野区すずらんハイム202)の隣の部屋ではインドからの留学生、チャンドラ・アリマンドが
 「コレハ寿司デスカ?」「メロンパンゴッツウマイッス。」などと黙々と日本語の勉強に勤しんでいた。

 By Re:mix

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